刑事マルティン・ベックシリーズ第一作目。
この前に松本清張『ゼロの焦点』を読み返していて、こんなにおもしろかったっけという気持ちだったのだが(後半の主人公の思考をたどるところはやや退屈)、『ゼロの焦点』の時代設定が1950年代なかば、『ロセアンナ』のそれが1964年。
「もはや『戦後』ではない」が載ったのが1956年の経済白書、東京オリンピックが開かれたのが1964年である。だいたい第二次世界大戦から少し経って次の世代に入ってゆくという時代。
作品の間に十年ほどの差があり、また戦争の中立国と敗戦国という違いはあるが、それでも大きな違いを感じさせる。
独立心が強く、また結婚制度にもとらわれまいとして自由を求める女性を描く『ロセアンナ』。一方で『ゼロの焦点』では「パンパン」であった過去の発覚を恐れる犯人、また特に惹かれ合ったわけでもないのに、理解したとは言い難い相手と結婚する主人公。
アマゾンのレビューには「古臭い」なんていう意見も載っている二つの作品だけれど、こうやって並べてみるとそんなことはなくて、性役割や社会参加についてシューヴァルとヴァールーの社会批評眼は本当に現代的だし、付け加えれば清張先生のほうだってネットで追跡される社会ではリアルな恐怖があるだろう。
あと、こんなところは『笑う警官』になかったので良かった。
美味しそう。食べ物の描写については『笑う警官』のエントリを。
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