ご無沙汰をしたが、年単位でご無沙汰だったこともあった。
丸谷才一ウィークという以前に読みが遅くて、丸谷才一イヤーを昨年から始めている。今読んでいるのは『彼方へ』。
瞬間的に、同時刻に起きている別の登場人物の場面へ切り替わるのだが、これが案外わかりづらい。同じ人物が一瞬にして別の時間に飛ぶ『笹まくら』と比べて、読んでいる身としてのストレスはかなり違う。『笹まくら』のストレスは小さく、『彼方へ』のストレスは大きい。
これは『彼方へ』の登場人物の説明がちっとも済んでいないのに飛躍するせいで、男兄弟二人の名前や別の登場人物の名前を、ページをひっくり返して何度確認したか知れない。
他ならぬ丸谷才一が短篇小説は技巧詰めでいかなきゃいけない、一気呵成に読ませなきゃいけないといっていた。『彼方へ』は何度か読んだことがあるはずだがちっとも覚えていない、その点で、例えば短篇小説集の中の『川のない街で』や『秘密』や『贈り物』や『初旅』とも違う、印象の薄い作品となった。
そしてそういう技巧がアノイングな作品としては、『エホバの顔を避けて』と同じくらいである。あれも、丸谷才一イヤーであっても、ちょっと読み返すのはつらい、内容とかでなく読書体験として。